調剤薬局専門の税理士ファーマシー会計事務所

調剤薬局でいわれる「在庫を減らすと節税になる」は嘘?本当?

調剤薬局の経営者様や管理薬剤師の方から、決算が近づくと必ずと言っていいほどいただくご相談があります。

「月末や決算期は棚卸を減らした方がいいと聞いたのですが、本当ですか?」

たしかに薬局業界では昔から「棚卸を減らせ」という言葉がよく使われます。
しかし、これを税金対策(節税)の話だと思っていらっしゃる方が非常に多く、実はここに大きな誤解があります。

今回は、棚卸と税金の本当の関係を整理したうえで、それでも「抗がん剤などの高額な医薬品は、仕入れをギリギリまで待った方がいい」と言われる本当の理由についてお伝えします。

「在庫を減らせば節税になる」は税務上まったく意味がない

結論からお伝えすると、期末の棚卸(在庫)を減らすこと自体には、節税効果は一切ありません。

その理由は、法人税や所得税の計算で使われる「売上原価」の仕組みにあります。

売上原価は、次の式で計算されます。

売上原価 = 期首棚卸高 + 当期仕入高 - 期末棚卸高

ここで重要なのは、期末に残っている医薬品(棚卸資産)は「経費(売上原価)」ではなく、「資産」として貸借対照表に計上されるという点です。

つまり、仕入れた医薬品のうち、まだ患者様に調剤・販売していない分は、いくら仕入れていたとしても、その期の経費にはならず、そのまま在庫(資産)として繰り越されるだけなのです。

  • 決算間際に大量に仕入れても → 売れ残った分はそのまま期末棚卸(資産)に計上される
  • 決算間際の仕入れを控えても → そもそも手元に在庫がないだけで、資産も経費も動かない

どちらのケースでも、その期の利益(課税所得)にはまったく影響しません。「仕入れを増減させて棚卸の金額を調整すれば税金が変わる」というのは、多くの経営者様が持たれている誤解であり、税務上の実態とは異なります。

棚卸資産の数量や金額を実態より少なく計上する(いわゆる棚卸除外)ようなことをすれば、それは節税どころか、税務調査で重加算税の対象にもなりかねない重大なリスクです。棚卸は、あくまで「実際にある在庫を正確に数える」ことが大前提であるとご理解ください。

では、なぜ「ギリギリまで仕入れを待て」と言われるのか

税務上の意味がないのであれば、なぜ現場では「高額な医薬品は仕入れを引っ張った方がいい」とアドバイスされるのでしょうか。これは節税の話ではなく、れっきとした経営上の合理性に基づくものです。

1. 資金繰り(キャッシュフロー)への影響が大きい

抗がん剤をはじめとする高額な医薬品は、1品目あたり数十万円〜数百万円になることも珍しくありません。処方が確定していない段階で先回りして仕入れてしまうと、その分の現金が在庫という形で長期間寝てしまい、薬局の資金繰りを圧迫します。

調剤報酬の入金までにはタイムラグがあるため、手元資金が薄い薬局ほど、この「在庫に化けた現金」が経営を苦しくする要因になります。

2. 使用期限切れによる廃棄ロスのリスク

高額な医薬品ほど、使用期限が短いものや、特定の患者様の治療スケジュールに合わせて処方されるものが多くあります。処方の見込みが不確実な段階で先に仕入れてしまうと、想定していた処方が入らなかった場合に、使用期限切れで廃棄せざるを得なくなるリスクを負うことになります。

廃棄損は税務上の経費にはなりますが、経費になるからといって得をするわけではありません。数十万円の医薬品を廃棄することは、その分の現金と利益を実際に失うことを意味します。「経費になるから仕入れておこう」という発想は本末転倒であり、そもそも無駄な廃棄を出さないことの方がはるかに重要です。

3. 薬価改定による目減りリスク

医薬品の公定価格である薬価は、定期的に改定(多くの場合、引き下げ)されます。改定のタイミングをまたいで在庫を抱えていると、仕入れた時よりも薬価が下がった状態で調剤・請求することになり、実質的な採算が悪化する可能性があります。

必要になる直前まで仕入れを待つことで、こうした薬価改定リスクを最小限に抑えることができます。

4. 実需に基づいた仕入れの方が経営効率が良い

抗がん剤のような高額医薬品は、不特定多数の患者様向けに幅広く在庫を持つ性質のものではなく、特定の処方箋に紐づいて動くケースがほとんどです。処方が確定してから仕入れる「実需ベース」の発注の方が、在庫リスクを抱えずに済み、結果として薬局全体のキャッシュフローと在庫回転率の改善につながります。

まとめ:仕入れタイミングの調整は「節税」ではなく「経営判断」

  • 期末に棚卸(在庫)を減らしても、税務上の利益や税額には影響しません。仕入れを控えても資産が減るだけで、経費と資産の動きが相殺されるためです。
  • それでも高額な医薬品や使用期限の短い医薬品の仕入れをギリギリまで待つべきなのは、資金繰りの改善、廃棄ロスの回避、薬価改定リスクへの対応といった、税金とは別の経営上の理由からです。

「節税のために棚卸を減らす」という発想ではなく、「無駄な在庫リスクを抱えないための仕入れ管理」という視点に切り替えることが、調剤薬局の経営を安定させる近道です。

関連記事

給与と賞与の違い|調剤薬局経営...

調剤薬局におけるパート・アルバ...

調剤薬局経営者必読!消費税が課...

調剤薬局のレセコンとクラウド会...

調剤薬局の役員報酬、決めるのは...

上部へスクロール