調剤薬局が老健施設との取引でインボイス登録を求められた場合、設備投資は登録後がお得です
「老健施設から適格請求書を発行してほしいと言われて、インボイス登録を検討しています。ちょうど分包機の入れ替えも考えているんですが…」
調剤薬局の先生からこうした相談を受けることがあります。実はこの状況、インボイス登録と設備投資の順番を間違えると消費税分を丸ごと損する可能性があります。
結論からいうと、インボイス登録を予定しているなら、分包機や電子薬歴などの大きな設備投資は登録後(課税事業者になってから)に行う方が有利になるケースが多いです。
なぜ調剤薬局は免税事業者が多いのか
調剤薬局の売上の大半を占める保険調剤は、消費税の非課税売上です。課税売上になるのはOTC医薬品や日用品の販売、施設への物品提供など一部に限られます。
そのため課税売上高が1,000万円以下で、免税事業者のままという薬局は少なくありません。「インボイスはうちには関係ない」と考えていた先生も多いはずです。
施設取引でインボイス登録が必要になるケース
ところが近年、次のような場面でインボイス登録を求められるケースが増えています。
老健施設・特養など事業者への薬剤・物品の提供では、施設側が仕入税額控除のために適格請求書を求めてきます。他薬局への医薬品の小分け販売(薬局間譲渡)も課税取引のため、相手薬局からインボイスを求められることがあります。企業への健康関連物品の販売なども同様です。
取引先との関係上、インボイス登録をせざるを得ない。そんな薬局が今後も増えていくと考えられます。
免税事業者は支払った消費税を取り戻せない
ここからが本題です。
分包機・電子薬歴システム・調剤監査システム・レジ設備など、薬局の設備投資には消費税がかかります。たとえば税込550万円の全自動分包機なら、50万円は消費税です。
課税事業者であれば、支払った消費税は「仕入税額控除」として売上で預かった消費税から差し引けます。設備投資が大きい年は還付を受けられることもあります。
一方、免税事業者は消費税の申告をしないため、支払った消費税を取り戻す手段がありません。支払った50万円はそのままコストになります。
登録前と登録後でこれだけ変わる
ケース:税込550万円(うち消費税50万円)の分包機を購入する場合
免税事業者のうちに購入すると、消費税50万円は取り戻せません。
インボイス登録して課税事業者になってから購入すると、消費税50万円は仕入税額控除の対象になります。特に調剤薬局の場合、売上の大半が非課税売上で預かる消費税が少ないため、設備投資をした年は支払った消費税の方が多くなり、還付につながる可能性が十分あります。
同じ買い物なのに、タイミングだけで50万円の差が生まれるということです。
注意:2割特例では設備投資の消費税は控除できない
免税事業者からインボイス登録した場合、納税額を「売上で預かった消費税の2割」にできる2割特例という負担軽減措置があります。
しかし2割特例は売上ベースで納税額を計算する仕組みのため、**分包機にいくら消費税を払っても納税額は変わりません。**仕入税額控除の恩恵を受けられないのです。
設備投資が大きい年は、2割特例ではなく本則課税を選択することで仕入税額控除や還付を受けられます。申告時に有利な方を選べるため、設備投資をした年は必ず両方を比較しましょう。
なお、調剤薬局の場合は非課税売上の割合が高いため、仕入税額控除の計算(課税売上割合)が複雑になります。設備投資の還付シミュレーションは事前に税理士に相談することをおすすめします。
高額な設備投資には「3年縛り」がある
税抜1,000万円以上の設備(高額特定資産)を本則課税で購入した場合、その後3年間は免税事業者に戻ったり簡易課税を選択したりできません。
調剤機器一式の入れ替えや内装工事を含む改装では1,000万円を超えることも珍しくありません。大型投資をする場合は、その後3年間の消費税シミュレーションもセットで考える必要があります。
まとめ
老健施設との取引などでインボイス登録を検討している薬局は、設備投資のタイミングを登録後にすることで消費税分の負担を減らせる可能性があります。設備投資をした年は2割特例ではなく本則課税の選択を検討すること、税抜1,000万円以上の投資には3年縛りがあることもあわせて押さえておきましょう。
調剤薬局は非課税売上が多い特殊な業種のため、消費税の判断はより複雑です。「うちの場合はどうなる?」という先生は、購入前にぜひご相談ください。