調剤薬局経営と相続・事業承継対策 ― 今から準備しておくべきこと

調剤薬局を経営している方にとって、日々の運営や資金繰りと同じくらい重要なのが、将来の「相続」や「事業承継」です。
「まだ先の話だから…」と準備を後回しにすると、相続税の負担が大きくなったり、調剤薬局の承継がスムーズに進まないリスクがあります。
本記事では、調剤薬局の経営者が押さえておきたい相続・事業承継対策をわかりやすく解説します。
目次 ▲
なぜ調剤薬局の事業承継は難しいのか?
調剤薬局は一般的な小売業とは異なり、承継の際に次のような課題が発生します。
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許認可事業(薬局開設許可、薬剤師資格など)が必要
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地域密着性が強く、オーナー交代で患者・取引先に影響
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店舗不動産や法人株式が絡み、相続税評価が複雑
そのため調剤薬局の承継は、単なる「財産の相続」ではなく「事業を継続するための準備」が不可欠です。
相続と事業承継の違い
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相続:調剤薬局オーナーが亡くなったときに、株式・不動産・現金などの財産を承継すること
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事業承継:生前から経営権・後継者教育・資産管理までを含めて承継を進めること
👉 相続発生の前に、調剤薬局の事業承継準備をどこまでできるかが重要です。
調剤薬局に多い事業承継パターン
1. 親族内承継(親から子へ)
最も多いパターン。後継者が薬剤師免許を持っていることが前提。
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メリット:患者・従業員・取引先の信頼関係が維持しやすい
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デメリット:後継者が薬剤師資格を持っていないと難しい
2. 親族外承継(社員・第三者)
社員や外部の薬局経営者に引き継ぐケース。M&Aが活用されることも。
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メリット:後継者不在でも承継可能
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デメリット:条件交渉・信頼関係の引き継ぎが難しい
3. 廃業
後継者がいない場合の選択肢。ただし、薬品在庫処分や従業員雇用の問題など負担が大きい。
4. 調剤薬局の売却(M&A)
近年、後継者不在の薬局では 売却(M&A)による承継 が増えています。
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チェーン薬局や地域の薬局グループへの売却
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メリット:後継者がいなくても承継可能、まとまった資金回収ができる
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デメリット:地域の信頼関係や従業員の雇用に影響する可能性
税務上は「株式譲渡」や「事業譲渡」によって扱いが異なるため、早めの相談が大切です。
👉 詳細は次回記事「調剤薬局M&A・売却の実務と税務」で掘り下げます。
税務上のポイント(調剤薬局の相続)
株式・不動産の相続税評価
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法人経営の場合、調剤薬局の株式評価額が相続財産に含まれる
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店舗不動産の評価方法を誤ると、相続税負担が重くなる
事業承継税制の活用
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後継者が株式を相続・贈与する際、一定条件で相続税・贈与税が猶予・免除
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ただし、手続きや認定要件が複雑なため、税理士と早めの対応が必須
生命保険・退職金の活用
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相続税の納税資金として生命保険を利用
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オーナー退職金を活用し、法人税の節税と相続準備を両立
調剤薬局オーナーが今からできる承継準備
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後継者候補(子ども・社員・第三者)を早めに検討
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株式・不動産の整理(分散させず、承継しやすい形に)
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遺言書や民事信託を活用し、争いを防止
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顧問税理士・弁護士・金融機関と連携した承継計画を作成
まとめ
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調剤薬局は「許認可事業」であり、事業承継は他業種よりも複雑
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株式・不動産の相続税評価、事業承継税制の活用が成功のカギ
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売却(M&A)という出口戦略も増えています
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後継者選定と資産整理は早めの準備が安心
調剤薬局の経営承継は、地域医療を守るためにも重要なテーマです。相続が起こる前にしっかり準備しておきましょう。
今回は承継というデーマで記事を作成しましたが、実際は承継よりも売却というケースがとても多いように感じます。実際に市場も成熟しており新規で出店するよりも他店をそのまま購入して店舗を増やしていく調剤薬局さんも多いです。
ですので今後や将来的な展望によっては売却ということも視野に入ってきますが、せっかく自分が築き上げてきた調剤薬局ですから親族や従業員に後継出来る人がいる場合は、後継の方向を考えていくのが良いと思います。