調剤薬局専門の税理士ファーマシー会計事務所

調剤薬局のM&Aは事業譲渡と株式譲渡どっちが正解?

調剤薬局の事業承継やM&Aを検討する際、必ず直面するのが「事業譲渡」と「株式譲渡」のどちらを選ぶべきかという問題です。

一般的なM&Aの教科書やネットの記事を見ると、「手続きが楽な株式譲渡が主流」と書かれていることが多いですよね。しかし、調剤薬局M&Aの実際の現場では半分正解で、半分間違いです。

現実には、買い手企業(特に大手チェーンなど)の意向によって、あえて「事業譲渡(新規での権利取得)」が選ばれるケースが非常に多いのです。

今回は、現場のリアルな実務を踏まえた上で、売り手・買い手それぞれの思惑と、本当に選ぶべき手法について徹底解説します!

そもそも何が違う?「事業譲渡」と「株式譲渡」の基本

まずは、2つの手法の根本的な違いを整理しておきましょう。

  • 株式譲渡:会社(法人)そのものを丸ごと買い手に譲る手法。

  • 事業譲渡:会社は残し、特定の「店舗(資産・権利)」だけを買い手に譲る手法。

これだけ見ると「会社を丸ごと引き継いでもらった方が楽そう」と思えますが、調剤薬局のM&Aでは買い手側の強力なロジックによって、事業譲渡が選ばれる現実があります。

なぜ現実は事業譲渡(権利取得)が多いのか?買い手の3つの本音

調剤薬局M&Aの実務において、なぜ事業譲渡(新規での権利取得)が多く選ばれるのか。そこには、買い手側(特に譲受側となる大手・中堅チェーン)の以下のような本音があります。

① 簿外債務や労務トラブルのリスクを100%遮断したい

買い手にとって最も怖いのは、会社を丸ごと買った後に、「過去の未払い残業代」「元従業員との労務トラブル」「過去の税務リスク(元オーナーの経費処理など)」が発覚することです(これを簿外債務・隠れたリスクと言います)。

事業譲渡であれば、会社とは切り離して「店舗という資産と権利」だけをクリーンに買い取れるため、買い手はリスクを完全にゼロにできます。

② 組織の一本化(ガバナンス)が圧倒的に楽

大手チェーンが株式譲渡で会社を買うと、別法人のまま子会社として管理するか、後から吸収合併する手間が発生します。就業規則や給与体系、調剤報酬の計算システムなどが別々のままだと、運営効率が非常に悪くなります。

最初から「事業譲渡」で店舗の権利だけを取得すれば、自社の「新しい直営店舗」として初日からスムーズに組み込めるのです。

③ 「許可の空白期間」は実務上、クリアできる

よく「事業譲渡は、薬局開設許可や保険指定をイチから取り直すから大変(営業できない空白期間ができるリスクがある)」と言われます。

しかし、M&Aに慣れている買い手企業や専門の仲介会社は、保健所や厚生局と事前に綿密な折衝を行います。

結果として、「前日閉局・翌日開局」で実質的なブランクを作らずに権利をスライドさせるノウハウを持っているため、手続きの煩雑さは買い手にとって大したデメリットにならないのです。

3. 【徹底比較】売り手と買い手でこんなに違う「利害の対立」

調剤薬局M&Aが難しいのは、「売り手がやりたい手法」と「買い手がやりたい手法」が真っ向からぶつかる点にあります。

比較項目 株式譲渡(売り手好み) 事業譲渡(買い手好み)
売り手の税金 安い(譲渡益に対し一律約20%) 高い(会社に法人税が約30%かかる)
売り手の手間 非常に楽(株を移すだけ) 煩雑(患者への告知や契約結び直し)
買い手のリスク 高い(過去の隠れた負債も引き継ぐ) 低い(店舗の権利だけを安全に買える)
買い手の運営 面倒(別会社として管理が必要) 楽(自社の直営店としてスタートできる)

このように、売り手としては「税金が安くて楽な株式譲渡」が良いですが、買い手としては「リスクがなくて運営しやすい事業譲渡」を望みます。

そのため、最終的には「買い手から『事業譲渡(権利取得)でしか買いません』と条件を提示され、売り手がそれを受け入れる」という着地になるのが、今のM&A市場のリアルな勢力図です。

4. 売り手が「事業譲渡」を受け入れる場合の注意点

もし買い手からの希望で「事業譲渡」を選択することになった場合、売り手(オーナー経営者)は以下の2点に注意する必要があります。

① 「手残り現金」のシミュレーションをやり直す

事業譲渡の場合、売却代金は経営者個人ではなく、一度「会社(法人)」に入ります。ここに約30%の法人税がかかった後、さらに個人にお金を移す(役員退職金として受け取るなど)必要があるため、事前の税金シミュレーションが不可欠です。税理士やM&Aアドバイザーと協力し、税負担を最適化するスキームを組みましょう。

② 門前ドクターや患者様への丁寧なアナウンス

事業譲渡は「経営者が変わる」だけでなく、実務上は「薬局が開設し直される(=別の薬局になる)」形をとります。門前のクリニックの先生へ事前に事情を説明し、安心してもらうことはもちろん、通ってくださっている患者様への案内も丁寧に行う必要があります。

現実のM&Aは「買い手の意向」に引っ張られる

調剤薬局のM&Aにおいて、理論上は株式譲渡がスムーズに見えますが、現実のマーケットでは「買い手のリスクヘッジ(事業譲渡・権利取得)」が優先されるケースが多数派です。

これから調剤薬局の譲渡を考えているオーナー様は、「どちらが良いか」を自分で決め打ちするのではなく、「買い手から事業譲渡を提案される可能性が極めて高い」という現実をあらかじめ頭に入れておくことが成功への近道です。

譲渡手法による税金の違いや、地域医療に影響を出さないためのスケジュール引きなど、まずは調剤薬局の現場実務に精通したM&Aの専門家に相談してみることを強くおすすめします。

実際は無償譲渡が多い

とはいえ、実際の調剤薬局のM&Aにおいては引退などによって売りに出ることも多く調剤薬局の権利等については無償で引継ぎを行い、賃貸物件は新たに不動産オーナーと契約を結ぶというった方法がとられることが多いように思います。
その際は株式譲渡ではなく、こちらは新たに会社を設立して権利取得を行い保健所の許可を受けるという流れになることが一般的かと思います。
譲渡費用は掛かりませんが仲介会社の手数料がかかります。
これはいずれ経費になるので問題ありませんが、経理方法が特殊なので税理士の指導の下、適正に処理が必要となります。

関連記事

調剤薬局が知っておきたい「賃上...

調剤薬局に経営分析は必要か?普...

棚卸(医薬品の在庫)の計算で注...

調剤薬局を買収する前に!失敗し...

第5回:調剤薬局における経費の...

上部へスクロール