調剤薬局の在庫管理と税務処理|棚卸・評価・廃棄の実務ポイントを税理士が解説
調剤薬局の経営において、在庫管理は利益を左右する重要なポイントです。
在庫は「持っているだけで安心」な反面、管理を誤ると 資金繰り悪化・税務リスク に直結します。
本記事では、
実務面(現場運用) と 税務面(決算・申告) の両方から、在庫管理の最適化について解説します。
目次 ▲
調剤薬局の在庫管理が難しい理由
調剤薬局の在庫には、他業種にはない特徴があります。
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医薬品ごとに 使用期限 がある
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薬価改定により 評価額が変動 する
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処方内容に左右され、需要予測が難しい
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高額薬剤が多く、少量でも金額が大きい
このため
「在庫はあるのにお金がない」
という状況が起こりやすくなります。
実務面:適正在庫を維持するための考え方
在庫は「回転率」で見る
在庫量そのものではなく、在庫回転率 が重要です。
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回転率が低い
→ 売れ残り・期限切れ・廃棄リスク -
回転率が高すぎる
→ 欠品・緊急発注による仕入単価上昇
目安
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定番薬:安定供給できる最小限
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高額薬:原則スポット対応+在庫最小化
高額薬剤は個別管理する
高額薬剤を他の在庫と一括管理すると、問題が見えにくくなります。
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高額薬剤は リスト化
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処方予定・使用実績と突合
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使用後は速やかに在庫確認
これだけでも、キャッシュフローは大きく改善します。
廃棄・返品ルールを明確にする
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使用期限切れ
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破損・品質劣化
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処方変更による不要在庫
これらを
「なんとなく処理」していると、会計処理が曖昧になります。
誰が・いつ・どの基準で判断するか
を決めておくことが重要です。
税務面:棚卸資産としての正しい扱い
決算時の在庫は「棚卸資産」
決算日時点で残っている医薬品は、
すべて棚卸資産(在庫) となります。
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仕入時点では経費にならない
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販売・使用された時点で経費化
この考え方を誤ると、
利益が実態よりも少なく(または多く)見える ことになります。
在庫評価の基本
原則として、調剤薬局では
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最終仕入原価法
が用いられるケースが多いです。
つまり
「期末時点での直近の仕入単価 × 数量」
で評価します。
使用期限切れ・陳腐化した在庫の扱い
使用期限切れや明らかに使用不能な医薬品は、
一定の条件を満たせば 評価減・廃棄損 として処理できます。
ポイントは以下です。
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実際に廃棄していること
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廃棄記録が残っていること
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恣意的な評価減ではないこと
写真・廃棄記録・一覧表などを残しておくと、税務上も安全です。
在庫管理と資金繰りの関係
在庫は「資産」ですが、現金ではありません。
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在庫が増える
→ 仕入代金の支払いが先行
→ 現金が減る
特に調剤薬局では、
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薬価差益が小さい
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保険請求の入金までタイムラグがある
という構造上、
在庫過多=資金繰り悪化 につながりやすくなります。
会計・税務と連動した在庫管理が重要
理想的なのは、
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現場:在庫回転・期限管理
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経理:在庫金額・評価管理
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税務:適正な利益計算
が連動している状態です。
在庫管理を
「現場だけの問題」
「決算のときだけの作業」
にしてしまうと、経営判断が遅れます。
税理士から見た実務上のアドバイス
調剤薬局でよくあるのが、
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在庫は毎年「だいたい同じ」
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金額が合わないので調整している
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廃棄はしているが記録がない
というケースです。
これは、
税務調査で必ず確認されるポイント でもあります。
日常の在庫管理を少し整えるだけで、
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利益が正確になる
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税務リスクが下がる
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資金繰りが安定する
という効果が期待できます。
まとめ
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在庫管理は「利益」と「資金繰り」の両方に直結
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調剤薬局特有の事情を踏まえた管理が必要
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実務と税務を切り離さずに考えることが重要
在庫管理を見直したい、
決算時の在庫処理に不安がある、
という場合は、早めの整理が結果的に負担を減らします。