調剤薬局M&A・売却の実務と税務 ― 後継者不在でも選べる出口戦略

少子化や後継者不足の影響で、調剤薬局でも「事業承継」のあり方が変わってきています。
そのなかで増えているのが、M&A(売却)による承継です。
「子どもが薬剤師ではない」「親族に継ぐ人がいない」「従業員にも後継候補がいない」
そんなときに、調剤薬局を売却して事業を継続させるという選択肢があります。
本記事では、調剤薬局のM&A・売却の実務と税務上の注意点を整理していきます。
目次 ▲
なぜ調剤薬局M&Aが増えているのか?
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後継者不在問題:親族内承継が難しいケースが増加
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チェーン薬局の拡大戦略:規模拡大のための買収需要
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地域医療の維持:廃業では患者や従業員に影響が大きいため、売却で事業を残すケースが多い
👉 「廃業よりM&Aのほうが地域にも従業員にも優しい」ため、売却が現実的な選択肢になっています。
調剤薬局M&Aの主な方法
1. 株式譲渡
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法人薬局の株式を買い手に譲渡
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店舗・従業員・許認可をそのまま承継できる
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手続きが比較的シンプル
2. 事業譲渡
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店舗・従業員・在庫など、事業の一部を譲渡
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不要な資産や負債を切り離せる
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許認可・契約の移転手続きが必要
税務上のポイント
株式譲渡の場合
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売却益に対して譲渡所得課税(約20%)がかかる
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個人株主か法人株主かで税率・処理が異なる
事業譲渡の場合
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売却資産ごとに税務処理が必要(薬品在庫、設備、不動産など)
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消費税課税の対象になる場合がある
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譲渡益に法人税がかかる
👉 どの方法を選ぶかで税額が大きく変わるため、税理士と早めのシミュレーションが必須です。
売却の流れ(実務)
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薬局の企業価値評価
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売上・利益・処方箋枚数・立地・薬剤師人数などで評価
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買い手候補とのマッチング
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チェーン薬局、地域薬局、M&A仲介業者のネットワーク
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条件交渉(価格・雇用継続・契約関係)
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売却額だけでなく、従業員雇用や賃貸契約の引き継ぎも重要
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契約締結・クロージング
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株式譲渡契約/事業譲渡契約の締結
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調剤薬局オーナーが準備しておくべきこと
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財務諸表の整理(粉飾や不明瞭な経費はマイナス評価)
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許認可・契約関係の確認(賃貸借契約・薬剤師雇用契約など)
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在庫・資産の棚卸し
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税務面の事前シミュレーション
メリットとデメリット
メリット
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後継者不在でも事業を残せる
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まとまった資金を確保できる
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従業員の雇用や地域医療を守れる可能性
デメリット
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買い手の経営方針次第で、従業員や患者に影響
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売却益に課税が発生
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条件交渉に時間がかかる
まとめ
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調剤薬局のM&Aは、後継者不在の時代に有力な出口戦略
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株式譲渡と事業譲渡では、税務処理・メリットデメリットが異なる
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早めに専門家(税理士・M&A仲介)と相談し、準備を進めることが成功のカギ
調剤薬局を「廃業する」か「残す」かはオーナーの大きな決断です。
M&Aという選択肢を理解し、地域医療と従業員を守る承継を考えてみましょう。